itti(イッチ)の部屋

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『愛しのSnow man』 ss

*ある方に想いを馳せて、ショートストーリーを作りました*




2月も終わるというのに、都会の雑踏の中
降りしきる雪の下で、有名なスクランブル交差点に独り佇む


別に置き去りにされた訳じゃないけど...


いや、これは置き去りにされた様なものだな
だって、ほんの2日前の話では、ここにあの人もいるはずだったんだから


同じ職場の先輩、後輩という立場で
付き合いだして、はや1年


本当は、僕の片想いで終わるはずの恋


だって、あの人は職場の先輩で
しかも僕と同じ男性なんだ
逆立ちしたって叶わぬ恋、のはずだった


あの人には彼女さんがいて
周りの人からは「観念して決めちゃえよ、結婚」
そんな風に言われていたのに.....



僕が部署変えになって、指導係になったのがあの人で


ずいぶん前から自分の性癖には気づいていたけど、そこはさりげなくスルー


女友達もいるし


楽しく喋る分には全然平気


ただ、触ったり触られたりが出来ないだけ


...てか、それが重要事項なんだけど


未だかつて、恋人関係になった人なんていなくて...
でも、最初に触れてきたのはあの人の方



前日の夜に降ったドカ雪をせっせと雪かきしていた僕
通行人の邪魔にならない様、人の合間を縫ってスコップで雪をすくっていた
そんな時、出社してきたあの人が「おはよ、ご苦労様。」と言って、僕の頭に乗っていた雪を掃ってくれた


「あ、、、っと、.......おはようございます!!」
一瞬ビクッとなりながらも、驚きより嬉しくて興奮した
きっと僕の頬は色づいてしまっただろう


ヤバイ・・・
必死で下を向いてごまかしたが
そんな僕の表情を見て、あの人は気付いてしまったらしい


それまでにも、ついつい社内で見かけると目で追ってしまう僕を変に意識したようで
僕が見るからあの人も僕を見る


絡んだ視線は、やがて言葉の代わりをしてくれる


『ス キ デ ス』
『ツ キ アッテ ク ダ サ イ』


やっと通じた僕の気持ち


あの人は、微笑みながら「友達からね!」と言った


なのに、長い間のトモダチ期間
僕は不安になって、誰も知る人のいないこの場所でなら恋人になれるかも
そんな思いで誘ったのに.......


「行けるかどうか分からない」
そんな返事で待ちぼうけ


来るわけないか.........


帰ろっかな.........


ポケットの中の手を出すと、肩にかかった雪を掃った


俯きながら一人交差点を進んでいくと
「ケンジ!」と声がかかる



「あ.........」


顔をあげて前を向いた僕の目に
白いダウンジャケットを着たあの人が映った


リブ網のニットキャップに積もった雪
その厚みはここに居た時間の長さを物語る


「何時から居たんです?」
そう聞く僕に「今来たばっかり」と


「........」
僕は、そっと頭に積もった雪を手で掃う


「アリガト」と言ってブルブルッと頭をふる彼に
「白のダウンって........、これじゃあまるでスノーマンですよ」
そういうと、ダウンの裾を摘んで引っ張った


「え?.......そうかな......?!」


絵本の中のスノーマンは溶けてしまったけれど
僕の隣のスノーマンはこうして笑っている


明日の朝になっても溶けていなけりゃいいんだけど.....


ジャケットの裾は掴んだまま
肩を並べて歩いて行けば、僕の心には愛が残るはず




頭上の雪も気にならない程、僕の心は満たされていた




スノーマン、僕だけのスノーマン


春になっても溶けないでいてね









春の訪れももうじきですね(*^▽^*)







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