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『オレンジタウン』残響のひかり。02


 神谷さんという人は、僕の携帯番号を聞いただけで、特に文句をいう訳でもなくあっさりと帰ってしまった。


僕は自宅へ戻ると、あの後神谷さんから連絡があったか携帯を確認するが、何の通知もないまま。


いつもの様にシャワーを浴びると、冷蔵庫からビールを取り出して一口飲んだ。
それから、ありあわせの材料で夕食を作る。料理は得意、というか慣れていた。


小学5年生の家庭科で簡単な料理を覚えて以来、中学生になるころにはそこそこの料理ができるようになっていて、文化部だった僕は、帰りの遅い母親に変わって晩御飯を作っていたぐらいだ。
いいのか悪いのか、それがもとで、母親は仕事人間になってしまい、父親と離婚してしまうことになる。
高校1年の時には、僕は父親と二人暮らしをすることとなった。



結局、すべての元凶はこの僕だ。


周りの人が不幸になるのは、僕がいるからだと、いつの頃からか思うようになってしまった。
そして今日も・・・・・。
下手したら、あの神谷さんの命を奪っていたかもしれない。



今夜も僕は、観ても笑えないテレビを点けて、ビールを飲みながら料理に箸をつける。
毎日の習慣で、心はなくても同じ行動を繰り返すことで、人は生きていける。


高校を卒業して、6畳一間のアパートに暮らすのも10年目。
その間に、ここへ来た友人は、ほんの数えるほど。10本の指で足りるくらいだろう。


こんな僕にも、声をかけてくれる女性はいたけど、結局は2ヶ月も経たないうちに離れて行ってしまう。
人を喜ばせる事が出来ない僕は、本当につまらない人間なんだろうな・・・・・。



今日もまた、一日が終わる。
昔の光景を思い出してビックリしたけど、事故にはならなくて、また命拾いをしたみたいだ。
スプリングのきしむベッドに潜り込むと、枕もとに置いた携帯に手を伸ばす。
布団の中で、もう一度着信通知がないか確かめてみた。


いちいちそんなことをしなくても、音量を上げておけばいいんだけど、僕は突然大きな音が鳴ってビクッとなるのがイヤだった。心臓が止まりそうになるほど驚く自分もおかしいんだけど、こればかりは治らない。
仕事でも、着信通知を知って後から掛け直していることで、同僚に文句を言われることもある。
それでも、僕の電話嫌いは有名になってしまって、最近では大目に見てくれる人もいる様だった。。


僕は、神谷さんからの電話が入っていないのを確かめると、ホッと胸を撫でおろして眠りにつく。




- - - 


いつもの朝、僕の朝食はバナナを一本とヨーグルトだけ。


なんだか女の子の朝食みたいだけど、今のところ、これが一番体に合っている。
一人暮らしの難点は、病気になっても誰も看てくれる人がいないという事。
自分の体調管理はしておかないと、結局自分にかえってきて泣く羽目になる。


そんな事の繰り返しで、いつもの様にアパートの駐車場に停めた車へ乗り込んで会社へと向かう。


今日も、何の変哲もない一日が始まって終わる予定だった。


・・・・彼からの電話をもらうまでは。




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