BL小説 02「台風が運んできたものは」SS
*02
前によく来ていた伊藤の家は、昔ながらの瓦屋根で、こんな風の強い日はカタカタという天井の音に、ビクついたものだ。
今日の様な台風ともなると、瓦が飛ばされやしないか心配になる。
「風呂場で服を脱いで、乾燥機に入れるから。」そう言われたが、俺は戸惑ってしまう。だってパンツ迄濡れてしまって、これじゃあ丸裸。
玄関から急いで風呂場へと行く伊藤の後を付いて行ったが、ドアを閉めるなり服を脱ぎ出した伊藤を見て身体が硬直した。
「なにしてんの。早く脱げよ、オレのも一緒に乾燥機に入れるから。」
「....あ、うん、」
急かされて、仕方なく俺も脱ぎ出した。
「後で新しいパンツ出してやるから。今穿いてるのは袋に入れて持って帰れ。」
俺が戸惑っていたのが分かったのか、伊藤がそう言ってくれて助かった。
「ありがとう。濡れたパンツ穿いたままかと思ったよ。助かる。」
バスタオルを渡されて腰に巻くと、伊藤は俺の服を掴んで乾燥機に放り込み、ドアを開けると出ていった。
俺は、タオルでゴシゴシと頭を拭きながら待つが、回っている乾燥機に目をやると、昨年の事を思い出す。
高校に入学して同じクラスになった俺たちは、名前の順番で席が前と後。初めこそ照れて話せなかったが、伊藤は人懐っこい性格で、俺の背中をつついてきたりして、何となく話すようになった。
スポーツ万能で、頭も良くて、明るい伊藤に対して、ちょっとおとなしめの俺は、伊藤のことを羨ましく思ったものだ。
それから一年、俺たちは親友と呼べる間柄になった。
でも、高2の三学期の最後の体育の後で…。
倉庫へ備品を片付ける係になった俺たちは、ふざけた友達のせいで閉じ込められてしまう。誰から言い出したのか、俺と伊藤はデきてるという噂がたった。
常に二人でいたし、他の友達が一緒の時でも伊藤は俺を気にかけてくれた。
カラオケに行っても、俺の選曲を入れて歌わせたが、それも自分から進んで入れられない俺の代わりにした事だった。
あまりにも、俺の世話をやく伊藤に対して、周りの誰かがからかい始めたんだ。
「伊藤は池田のこと好きなんじゃね?」
「お前らおホモだち?」
そんな事を言われ始めて、あの悪戯だった。
4時間目の体育のあとに閉じ込められた俺たちは、校庭に置かれた倉庫の中でドアを蹴ったり叩いたりしたが、誰も開けには来ず、きっと昼休みが終わるまで来ないつもりだと諦めた。
冬の寒い中、倉庫といっても外の温度とそんなに変わらない。俺はガタガタと震え出す。それを見た伊藤が、傍にあった救護用の毛布を俺に掛けた。
俺は伊藤の身体も引き込んで、二人でその毛布にくるまったんだ。
「抱き合ったらもっと暖かいかも。」そう言って伊藤は俺の身体を抱きしめた。
そのままじっとしていれば良かったのに……変に意識しちゃって、尚更恥ずかしくなった俺に、伊藤がキスをしてきたんだ。
俺も、初めての事で舞い上がった。だから伊藤にしがみついてしまって。それが余計に興奮させたらしく、夢中でベロチュウ迄してしまった。
昼休みが終わる前に、鍵を開けに来た奴の顔を 俺は見ることが出来なかった。
それ以来、俺は伊藤から距離を置き、3年になってクラスが別れた事で、ホッとした。
なのに、また、伊藤に助けられた俺は...
「これ、この間買ったばっかのだから、お前にやる。穿いて帰れ。」ドアが開くと、すぐに手渡され、俺はタオルの影からソレを穿く。「あと、これも。乾くまで穿いてろよ。」
そう言うと、短パンを寄こす。バスタオルを頭から掛けて、短パンを穿いたまま、俺たちは居間で時間をつぶす。新しいクラスメイトの話や授業の時の話。他愛のない会話は、二人の距離を縮めてくれた。
「台風来たのが冬じゃなくて良かったよな。」
そう言われて、あの倉庫の事が頭をよぎる。と、俺の表情で気付いたのか、
「あれ、昨年のアレの事だけどさ、」
「……」
口を噤んだ俺に、伊藤が言った。
「俺たちがデきてるって言われたの、オレのせいだから。」
「え?」
「オレが山下あかりに言ったから。」
そう言われても、訳がわからなくて。
「山下に告られて、断る時に言ってしまったんだ。オレが好きなの、池田太一だからって。」
「………えええっ!?」
驚きの声を上げると、伊藤は少し照れたように俺を見た。
「中学生の時、女子と付き合ったことあるけどさ、なんかピンとこなくて……、お前と一緒にいるようになったら、気付いたんだ。」「え?気付いたって何を?」
「池田の事を好きな気持ち。これって他の友達とは違う感情だってことに。」
俺は焦った。だってそんな事今更言われたって…
「あの倉庫での事も、オレにとっては嬉しい悪戯だった。お陰で池田とキス出来たしな。」
下を向く俺に、尚も伊藤の明るい声が響く。
「そんな事言っていいの?伊藤は何でも出来て女子にモテるのに。」俺がそう言うと、伊藤は笑った。
「好きじゃない奴にモテたって嬉しくも何ともない。オレが好きなのは、今だって池田だし。」
伊藤の頬が、少しだけ赤く色づいた様な気がした。そして、俺の鼓動も早鐘を打つように高まった。
「また、俺と友達になってくれる?」そう聞いてみる。すると伊藤は、頭に乗せたバスタオルの影から俺をじっと見るとこう言った。
「オレたち、ずっと親友だった筈なんだけどな。だから、格上げして、オレの恋人になってよ、池田。」
ドキリとして、目が合うと、伊藤の顔には満面の笑みが溢れていた。
表では、けたたましい風と吹き付ける雨の音がしている。
この日、俺に衝撃を与えたものは、台風でもイタイ雨合羽でもなくて、親友からの告白だった。
またまた 落書きです。w
小説は2話でおしまい。また、いつの日にか…♡