カザミドリSS. 【逆転】
*こんにちは。少しづつ読者様も減ってまいりましたが、新たに読んでくださっている方もおられるようで、本当にありがとうございます。
その方々のために、今回はショートストーリーを書きました。
ついでに、成長したアユムの姿もご覧ください。
三田駅から港南工業高校へ向かう電車の中。俺は、いつもの様にアユムと向かい合うと、日常の他愛ない会話を楽しんでいた。
「生徒会の仕事って、大変?」
アユムが俺に聞いてくるけど、これで五回目。
「まあ、大変と言えば・・・でもまだ3年生がいるし、俺は雑用だから。今のところはそうでもないかな。」
「ふうん。」
大抵は、この ふうん。って言葉で終わるんだ。
この先にアユムの言いたい言葉があるんだろうに、未だに言わない。
「なあ、アユムも来年・・・ 生徒会入るか?」
「え?生徒会って、勝手に入れるの?」
驚いた顔で俺を見るが、ちょっと嬉しそう。
「勝手に、って事はないけど、立候補すればだいたいは。」
「え?そうなんだ!投票とかして選ばれるのかと思ったよ。」
「最初はそうだったけど、だんだん候補者が減ってきて、みんな塾とか忙しいからな。だから今は、先生に頼まれた生徒がやってる。俺なんか嫌だって言ったんだけど・・・」
「そうなの?嫌そうには見えないけどね。」
「・・・実は、入学式の時に新入生の胸にリボンを付ける係があるって聞いて、それで引き受けちゃった。」
「・・・」
そう、入学式の朝、俺がアユムの胸にリボンを付けてやったんだ。
無言で聞いていたアユムの顔がニヤケてきた。ちょっと赤くなって、白い肌が桜色になる。
「・・・もう、友田さんてば・・・」
そういうと、俺の肩のゴミを取る振りをして顔を近づけてきた。
少し回りを見るけど、気にする人も無いようで、俺はアユムの方を見ると顎を少し上げた。
入学して半年。
あんなに小さくて華奢だったアユムが、今では身長も伸びて。
2センチ越されてしまった。
やっぱり、クウォーターだからかな?
高校生の間にどのくらい伸びるんだろう。
「僕が生徒会に入ったら、また友田さんといる時間が増えるよね‼・・・来年立候補しようかな。」
「うん、そうしろよ。帰りも一緒に帰れるし。」
「そうだね。そうしようっと‼」
アユムは益々頬を赤くして嬉しそうに笑った。
去年までの、あのカワイイ男子は何処へいったのか。今ではすっかりイケメンになっちゃった。
その内、俺の顎をクイっと持ちあげてキスしてくる日が来るのかな。
俺の肩をごそごそ触っていた手が、そっと襟首に当たると、ほんの少しの皮膚の感触を味わっている。
俺を見る目が熱をおびてくると、アユムの口元はきゅっと一文字に結ばれた。
これは、俺にキスをねだる時の仕草。
でも、本人は気付いていない。
「生徒会室の鍵、持ってるんだけどさ・・・今からちょっと見に行く?」
「・・・う、ン。」
美術室の奥の、誰も使わない部屋があって、今はそこが生徒会室になっていた。
朝のシ、ンとした部屋で、俺とアユムは互いに見つめ合う。
俺の胸に埋もれていたアユムは、ここにはいなくて、互いに抱きしめあえば頬が当たる。
同じ目線でキスを交わすと、俺の中にぼんやりとした思いがよぎる。
いつか、アユムが男としての感覚を味わいたいと言ってきたら・・・・・
---ン----ンン----
桜色に染まるアユムの頬は、相変わらず可愛いまま。
いつまでも俺の可愛いアユムには違いない。
もしその日が来たら、俺は立場が逆転することも受け入れるよ。
どちらにしたって、愛しいアユムには変わりない。ずっと隣にいて欲しい。
このまま、一緒に並んで歩いて行きたい。
「アユ・・・」
「・・ン?」
「好きだよ。」
「うん。僕だって‼」
---遠くでチャイムの音が聞こえる。
そろそろ教室へいかなくちゃ----。
でも、あと5秒だけ・・・