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『オレンジタウン』残響のひかり。04

 夕方6時をまわり、事務所の中には僕ともう一人の社員だけが残っていた。


お互いに社員数の多い企業を任されて、製造の会社となると入れ替わりも激しい。
その都度、離職の手続きやらであわただしく、もめ事などが起こった日には調べ物で夜中までかかることもあった。


「津田くん、そろそろ終わる?・・・俺の方は、あと5分ぐらいなんだけど。」


「はい、僕もあと一人分の入力で終わります。」


2年先輩の佐々木さんは、この間結婚したばかりで、本当は残業なんかしないで早く帰りたいだろうに・・・。




パソコンの電源をシャットダウンすると、机の上に置きっぱなしの携帯に目をやった。
そう言えば、後で連絡すると言ったのに、未だに連絡がない。


僕としては、その方がありがたいけど、痛いところがあるとか言われると気になった。




佐々木さんを見送って事務所を後にするが、ポケットの中の携帯はまだ反応しないまま。
時計の文字は18:58


7時に待ち合わせっていっても、どこか分からないし、今日はきっと取りやめになるんだと思って車のエンジンをかけたその時。胸ポケットにしまった携帯が反応して、思わず僕までブルっと震えてビックリする。




「・・・はい、津田です。」


緊張して出た僕に「ははは、、やだなぁ、そんなに堅くならなくていいですよ。神谷です。」と、笑いながら言う声が。


僕は、その名前を見たから緊張したっていうのに・・・。


「えっと、そこら辺に’ホテルレガシー’ってのがあると思うんです。ビジネスホテルですけど。」
「え?・・・・近くって・・・・」



なんとなく、視線をあげてみた僕は、一瞬背筋がゾクツとなると、辺りを見回した。


今、立体駐車場の前に見えるのが、その’ホテルレガシー’だったから.....。
まさか、彼もこの駐車場にいるんじゃ・・・


「あの、神谷さんは、・・」
「俺、そのホテルの入口に居ますから、車は駐車場にそのまま置いて来てもらっていいですか?」


「・・・え?!」


僕は焦った。
もちろんすぐ近くだし、行けない距離ではない。
7時に、と言われて間に合う場所に、行けないとは言えなかった。



「わ、かりました・・・。」


携帯を切ると、カバンを持って歩き出す。
が、なんとなく足が進まない。


こんな風に呼び出されて、何を言われるんだろう・・・・。
昨日は、怪我はないと言っていたのに、今日は痛いところがあるって。


ひょっとして、何か悪いことを企んでいて、僕に慰謝料を払えっていうんだろうか・・・。
一抹の不安を抱えて、指定されたホテルの前に着く。


すると、中から神谷さんが出てきた。


「すみません、丁度ここに泊ってるお客さんを送ってきていて。時間もギリギリだったし、間に合えばいいなと思って・・・。よかった、帰る前で。」


僕がキョトンとしているのに、神谷さんは気にせずしゃべりだした。


「あの、・・・どうして僕の仕事場がこの近くだって分ったんですか?それに駐車場まで・・・」


不審に思って聞いてみると、「ああ。」と一呼吸おいてから「ここじゃなんですから、話せるところに移りますか。」
という。


ホテルの入口で立ち話も出来ず、仕方なく神谷さんについて行く事にするが、一度抱いた不信感はなかなか消えるものではない。やはり緊張の面持ちで後についた。


「津田さんは蕎麦、食べられますか?」


「え?・・・ああ、はい。大丈夫ですが・・・。」


「なら、ここへ入りましょう。ここの2階は個室があって、平日は静かなんで。」


「・・・はい。」


思わず返事をしてしまい、言われた先を見上げると、ビルの中に何軒かの飲食店が入っていて、確かに蕎麦屋の名前が。
静かに蕎麦を食べながら、何を言われるか心配ではあるが、それでも人通りのあるビルの中だしと思うと、少しだけ緊張も解ける。


時間的に、会社帰りのサラリーマンやOLの姿が目立つが、渋い色合いの内装やゆったりした静かな雰囲気は心地よく感じられ通された部屋に入ると、尚更そう思った。


4畳半ほどの畳敷きの部屋には年季物の座卓が置かれ、カバンをその下へ置くと上着を脱いで壁に掛かったハンガーに掛けておく。それからゆっくりと腰を降ろすと、目の前の神谷さんが僕の顔を見てニコリと笑った。



「よかった、津田さん泣きそうな顔だったから、断られるかと思ってましたよ。」
神谷さんの言う言葉で、さっきまでの自分の不安が顔に出ていたことを知る。



「そうですか?・・・・すみません、そんな顔していましたか・・・。」


僕の返事を聞きながらも、神谷さんはしっかりとお品書きに目を通していて、「適当に頼んじゃっていいですかね?!」と聞かれたので「はい、お願いします。」と答えた。



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