itti(イッチ)の部屋

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『虹の橋を渡ったら』 SS 完

 せっかくの休日デートも、的場さんの一言で台無しだ。


肩を落として自宅へ戻ろうと、バス停に向かった僕に、「大宮⁉」と、後ろから声が掛かったので振り向いた。


─ぁ。


声の主は高校時代の同級生。
高岡 俊也(シュンヤ)だったが、あまり良い印象は無い。



「地元に居るのは知ってたけど、会うのは久しぶりだなぁ。元気?」
気軽に声を掛けられて、隣に並ばれるとちょっとした威圧感で息苦しくなる。


「高岡くんは相変わらず体格いいね。まだ格闘技やってるんだ?」
「うん、今は趣味で、だけどな。」
「へぇ・・・・そうか。」



ちょっとだけ間が空いて、彼が僕の方を見ているのに気付いた。


「大宮、相変わらず小っせぇな。顔も変わってないし・・・ジャニヲタの餌食にされそう。ふ、はははっ。」
口の前でグーにした手が笑い声を隠せるはずもないが、一応の気づかいをみせる。


「なんだよジャニヲタって・・・。僕だって少しは身長伸びたんだよ。167センチ。」


「・・・・」


高岡くんは黙ってしまった。
胸を張って167センチの報告は要らなかったのか?


その後、なんとなく高校時代の担任の話になったりして、バス停まではアッという間に着いた。
「じゃあな、」「うん、」と言って互いに手を上げると僕たちは別れる。


程なくして来たバスに乗り込もうと列についたが、僕の隣に来た人に腕を掴まれてビックリした。一瞬のけ反って隣を睨むが、その顔を見て目を見開いた。


「.........的場、さ、ん.....?」


僕の言葉はそのままで、腕をつかんだままバスに乗り込むと、二人掛けの空いているシートに押しやられ腰を降ろす。ドキドキした。公衆の面前で、腕を掴まれているとはいえ二人で寄り添うように座るって・・・・・


映画館で隣に座るのも、変に意識して落ち着かないっていうのに、こんな混みあったバスの中じゃ更に意識しちゃうじゃないか。それに、掴んだ腕から離された的場さんの手が、僕の手の甲に乗せられていて・・・・へんな汗が出る。


『ヨシくん、怒ってるよね?』と言われ、こんな場所で返答に困る僕は黙ったまま。


『さっきのは強がり。全然ヨシくんの言葉を受け止めるなんて出来ないから。』


「................あの、.........降りる、次のバス停........だから、黙って..........」
小さな声でそう言うのがやっとで、僕は的場さんの手を掃うと立ち上がってパスケースを出した。


『あ、......』
的場さんが、慌てて小銭を出す様子を横目で見ると、ちょっと拍子抜けする。




僕たちは、バスを降りて辺りを見るけど、喫茶店なんかは見当たらず仕方がないから歩いた。どこへ向かう訳でもないけど、取り敢えず進行方向に向かって歩き出す。


「なに?僕の後を付けてきたの?」と聞く僕に、『・・・うん。』と答える。


「もっと早く声かけてくれたらいいのに・・・。」


『うん、そうしようと思ったら、なんかデッカイ男が出て来て・・・話し始めたから。』


「ああ、あれは高校の同級生だったヤツ。・・・え?そっからずっと僕の事見てた?」


『・・・まあ、仕方なく・・・ネ。』


「・・・そう、・・・で?」


さっきのバスの中での続きを聞かせてもらおうと思った。
ここなら誰かに聞かれる事も無い。行き過ぎる車の音で、自分たちの声も聞こえにくい程だし。


『ヨシくんが女の子なら、今すぐにでも結婚して、寂しい思いはさせないのに.....』
「...............は?」


耳を疑った。
この状況で、今更な僕らの性癖を語るつもりか?


「男の子の僕が好きって言ったのは、的場さんだよね?」
『.......うん、もちろん。』


「僕は、言っておくけどゲイなの。自分で気づいたのは的場さんに声を掛けられてからだけど、かといって女性になりたい訳じゃ無い。」
『うん、分かってる・・・。』


歩きながら、思わず興奮してしまった。バイセクシュアルの的場さんにとって、僕は同性の恋人で、異性の恋人を作る事も出来るんだ。嫌になる。こんな事で自分の性や思考を再認識するなんて............


「悲しくて涙が出るよ。僕が的場さんを好きになったのがいけなかったの?女の子じゃなきゃ、一緒にもいられないの?」
そう言ったら本当に涙が出て来て、それを拭うのもみっともないからそのまま歩く。


『ごめん、そういう意味じゃなくて・・・』
「じゃあ、どういう意味?僕に手術でもして外見だけでも女になれっていうの?」
思わず立ち止まると、的場さんの顔を睨みつけた。
的場さんは、僕の泣き顔に驚きの表情をするが、唇を噛みしめて眉をさげる。
だらりと下げた僕の腕をグイッと掴み上げると、的場さんが身体をギュっと抱きしめてきた。


「あっ,.........ぁ」
一瞬の事で、頭の中は空っぽになったが、行き過ぎる車の窓から僕らを振り返ってみる人に気づくと焦った。


ここは一般の歩道で、自転車に乗った人や歩く人も通っている。


僕らの横を通り過ぎる自転車の人も、一瞬だけど振り返って見て行った。


「的場さん・・・」
怒れる事よりも、今度は恥ずかしさでいっぱいになった。
こんな所で抱きしめるなんて・・・・・


『ヨシくん、職場は遠くになるけど、・・・休みの日は、出来るだけ会えるようにするから、別れるとか言わないでほしい。』
僕の頭の上から聞こえる声は、少し震えているようで.......。


僕の興奮も治まると、なんだか恥ずかしさも薄れてきて、歩道の上で的場さんの背中に回した腕に力を込めた。


「さっきの虹............、キレイだったね?!」
『うん、あんなに大きな虹は珍しいよね。初めて見たかも。』


部屋から見えた虹の事を思い出して僕が言うと、的場さんも話始める。
さっきは悲しみでどんよりしていて、言いたくても言えなかった。
あんなに素敵な虹の橋もかすんで見えてしまったんだ。
せっかくの、自然界が与えてくれた綺麗な光の帯だったのに・・・・


『また一緒に居たら、素敵な虹を見れる日も来るし。もし、離れている時に見えたとしても、あの虹の橋のたもとにはヨシくんがいるんだって思うよ。』
そう言うと、的場さんはもう一度僕の身体をきつく抱きしめた。


「うん、僕もそう思う事にする。.......大好きな的場さんが、そこにいるって想像するよ。」
『ヨシくん・・・』



何台の車が、抱き合う僕らを横目で見て通り過ぎたか・・・。
地元で、知り合いに見られるかもしれない場所で、僕らは二人だけの世界に浸っていた。


暫くして身体を離すと、手を繋いできた的場さん。
僕はもう恥ずかしくなくて、そのままにして歩いた。


『でね・・・』
「・・・ん?」


口元を綻ばせてにこやかな的場さんは、僕に向き合うとこう言った。
『埼玉までは、電車で通える距離なんだよね。通勤時間は倍ぐらいかかるけど、引っ越しをするほどじゃないんだ。』と。


----------ぇ?------------


僕らの今までの話って------------?!






-----------完---------------



***先日、雨上がりの後、地元でおっきな虹が架かったんですよね。
それを車の中からパチリ。
で、虹を見ていたら思ったんです。
この虹の向こうってどうなっているんだろうか。
見る角度は違うけど、誰の目からも見える虹。
これを見る恋人たちはどんな想いを馳せるのか…ってね。
そして、出来たのがこの『虹の橋を渡ったら』でした。
最後まで読んで頂き有難うございます。
甘々な二人の続きは、ご想像にお任せいたします。-----では(*'ω'*)

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