itti(イッチ)の部屋

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幼なじみで先輩で…

いつからこんな気持ちになったんだろう。


額に掛かる前髪を無造作にかきあげて、桐谷司(キリタニ ツカサ)は呟くと、3メートル先を歩く幼馴染みの久野 葵(クノ アオイ)の背中に視線を投げた。


柔らかそうな葵の髪は、朝陽が当たると色素が薄いのか、所々が金色に光って見える。長袖のシャツを肘の辺りで捲り、そこから現れた腕は白くてしなやかだった。


葵は2月生まれ。

一方の司は、8月生まれ。


同じ年に生まれても2月と8月では学年がひとつ違ってしまう。

一学年上の葵の背中を眺めながら、昔はあの横にピタリと引っ付いていたのにな...と、司はため息を漏らす。



二人は同じ団地に住み、共働きの両親を持つと、1歳に満たない頃から同じ保育園に預けられていた。

どちらもひとりっ子で兄弟はなく、華奢で色白の葵に対して、少し体格のいい司の方が見た目兄の様だった。


3歳で学年を分けられる迄はいつも隣でお昼寝をしていて、保育園の中でも本当の兄弟の様に育った二人。


親同士も仲良くて、互いの家を行き来していた葵と司は、夏休みになるとどちらかの家に入り浸る事もあって、それはどちらの親も普通に受け入れていた事だった。


そんな二人が全くの疎遠になったのには訳がある。が、どうしようもない事だと、半ば諦めかけた司。


葵の背中に熱い視線を送っても、それは届くことは無いと思っていた。


***


「なあ、久野葵って先輩、桐谷の幼馴染みだったよなあ。」


移動教室へ向かう司の肩を掴んで言うのは、同じクラスの吉野誠。マコトは学年でも一番の成績で、身長もあって女子にも人気があった。

正直、それ程親しくもないのに話しかけられて焦ったが、葵の名前をだされたら知らない顔も出来なくて。


「そうだけど、なに?」

平気な振りをして聞く。


「家のアニキの友達にS大の女がいてさあ、その人のカレシなんだって。年上の女と付き合うなんて凄くない?大学2年生だよ??」


「…へぇ、そうなんだ!?」

初めて聞く葵の女関係。今年の夏まではそんな存在無かったはず。あのあと付き合う事になったんだな。と、司の中で微かに残った記憶を辿った。


「気にならない?」

そう言われて「え?」と聞き返した。

それはどういう意味で…?


「別に…、今はそんなに交流無いし。」


言いながら司の胸に居来するのは、あの夏休みの出来事。あの日の事は司にとってのターニングポイントとなった。

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