ー 泡かたの恋 ー 03
映画が終わって帰り道、バス停まで三人で歩くが、アツシと金森は俺の前を歩いていた。
アツシの話を笑顔で聞く金森。推しの俳優の自慢を聞かされてウンザリしないんだろうか、と心配になる。
「アツシって、男の人好き?」
「え?…」
金森に唐突な質問をされてアツシは立ち止まった。
俺も後ろで聞いていて焦る。
「それは……男だけどあの俳優だからだよ。変な事言うな」
アツシは少し怒った顔をすると金森に言った。
それを見て、俺は胸がざわついた。金森の質問はどういう意味合いだったのか。男が好きなのかと聞かれて、軽々しくうんとは言えないだろう。
金森は謝る事なく黙ると、そのままバス停を目指した。アツシも黙ってしまう。
「あ、俺、帰りにドーナツ買うの忘れてたわ。ネェちゃんに頼まれてたのに、手ブラで帰ったら殺される」
二人の空気を変えたかった俺は、そう言って声をかけた。忘れなかったら買ってきて、と言われたのは本当。そして、多分買って帰らなかったら蹴りは入ると思う。
「文ちゃんのネェちゃん怖いからなー」
アツシはクスッと笑って言った。
去年まで同じ学校の3年生だった姉には、アツシも小学生の時に泣かされている。気が強く、男勝りな姉には、俺も逆らえないんだ。
「じゃあ、オレは先に帰るよ」
アツシが言うと、金森が「オレもドーナツ食べたいかも。一緒に行っていい?」と俺に尋ねる。
「ああ、もちろん」
そう言うと、俺と金森は向きを変えてアツシと別れて歩き出す。
振り返ってアツシが遠ざかったのを確認した俺は、金森に「お前さあ、なんであんな事聞いたんだよ」と言った。
「だって、アツシがあんまり煩いから」と、悪びれるでもなく俺に言う金森に、思わず溜め息を零した。
確かにアレは煩かったが…
「笑顔で聞いてたじゃんか」
「あんなに夢中になって話されたら聞くしかないよ」
「そりゃあそうだけどさ。男が好きなのか、とかさ…ビックリするって」
「そう?別に好きならそれで良くないか?」
金森がそう言うので、俺も返答に困る。
確かに、ダメな訳じゃない。
でも、センシティブな質問だ。
考えている間に、ドーナツの店の前までやって来た俺たちは、顔を見合わせると中に入って行った。