itti(イッチ)の部屋

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ー 泡かたの恋 ー 04

itti(イッチ)



俺と金森はドーナツの入った袋を持つとバス停まで歩いた。その間、あんまり話す事もなくて、並んでみれば身長差を感じた。


「奥田って身長いくつ?」

ふいに金森に尋ねられ「んーと、177か8。金森は?」と聞いた。


「オレは171か2。えー、7センチの違いなのに結構あるんだね。アツシはデカイからいつも見上げてるんだけど、奥田も見上げなきゃいけないよ」

そう言って笑った。


三人で歩く時は、金森の横にアツシが居て、俺はいつも後ろから二人を見ていた気がする。


「奥田はさぁ、アツシの事どう思ってる?」

「は?……どうって」

「アツシもだけど奥田も彼女いないじゃん。それに女子とは距離置いてる気がする」

「え、……どういう意味?」


「オレ、この何週間か二人を見てて、アツシは奥田の事好きなんじゃないかなって思った」

「っはあ?」


俺の目玉は飛び出しそうになる。


「11年いるけど、そんな風に感じた事ないぞ。俺が女子と距離とるのは怖いからだよ」


「え、なんで怖い?」


「いや、上と下に怖い姉妹いるから。外での態度と家の中じゃ別人。クラスの女子も多分そうだと思うとさ、怖いだろ」


「ははは、おもろい。じゃあ奥田はノーマルだけど女子恐怖症ってだけか」


「ノーマルって何?……てか、金森は?アツシの事好き?」


どうしてそんな事聞いたのか。自分でびっくりした。


「んー、好きだけど、ちょっと煩い時あるから。それにあの反応みただろ?免疫なさすぎ」

「金森は免疫あるのか?その、同性と付き合うとか」

「……あるよ。そのせいで転校したし」

「は?」


突然の告白に今度は空いた口が塞がらない。

金森をガン見したまま立ち尽くした。

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ー 泡かたの恋 ー 03

itti(イッチ)



映画が終わって帰り道、バス停まで三人で歩くが、アツシと金森は俺の前を歩いていた。

アツシの話を笑顔で聞く金森。推しの俳優の自慢を聞かされてウンザリしないんだろうか、と心配になる。


「アツシって、男の人好き?」

「え?…」


金森に唐突な質問をされてアツシは立ち止まった。

俺も後ろで聞いていて焦る。


「それは……男だけどあの俳優だからだよ。変な事言うな」


アツシは少し怒った顔をすると金森に言った。

それを見て、俺は胸がざわついた。金森の質問はどういう意味合いだったのか。男が好きなのかと聞かれて、軽々しくうんとは言えないだろう。


金森は謝る事なく黙ると、そのままバス停を目指した。アツシも黙ってしまう。


「あ、俺、帰りにドーナツ買うの忘れてたわ。ネェちゃんに頼まれてたのに、手ブラで帰ったら殺される」


二人の空気を変えたかった俺は、そう言って声をかけた。忘れなかったら買ってきて、と言われたのは本当。そして、多分買って帰らなかったら蹴りは入ると思う。


「文ちゃんのネェちゃん怖いからなー」

アツシはクスッと笑って言った。


去年まで同じ学校の3年生だった姉には、アツシも小学生の時に泣かされている。気が強く、男勝りな姉には、俺も逆らえないんだ。


「じゃあ、オレは先に帰るよ」

アツシが言うと、金森が「オレもドーナツ食べたいかも。一緒に行っていい?」と俺に尋ねる。


「ああ、もちろん」

そう言うと、俺と金森は向きを変えてアツシと別れて歩き出す。


振り返ってアツシが遠ざかったのを確認した俺は、金森に「お前さあ、なんであんな事聞いたんだよ」と言った。


「だって、アツシがあんまり煩いから」と、悪びれるでもなく俺に言う金森に、思わず溜め息を零した。


確かにアレは煩かったが…


「笑顔で聞いてたじゃんか」

「あんなに夢中になって話されたら聞くしかないよ」

「そりゃあそうだけどさ。男が好きなのか、とかさ…ビックリするって」

「そう?別に好きならそれで良くないか?」


金森がそう言うので、俺も返答に困る。

確かに、ダメな訳じゃない。

でも、センシティブな質問だ。


考えている間に、ドーナツの店の前までやって来た俺たちは、顔を見合わせると中に入って行った。

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ー 泡かたの恋 ー 02

itti(イッチ)



俺、奥田とアツシと金森は3人でつるむ事が多くなった。元々アツシのコミュ力で3人の会話は途切れる事がない。

金森もアツシとは気兼ねなく喋れる様で、時に大笑いをしたりして最初の印象とは違って見えた。


「金森も大口開けて笑うんだな」

アツシが席を外して二人になった時に俺が言うと、少し不思議そうな顔で「え、大口開けてた?」と言った。


「ああ、なんか上品そうに見えるから、そんなガハハって笑うとは思ってなかった」

俺は自分が受けた印象を話したが、金森の表情が一瞬暗くなったのを見逃さなかった。


「ごめん、変な事言ったか」


「いや、いいよ。自分で言うのも変だけど、オレの容姿は人から勘違いされるようだし。上品じゃないのにね」

そう言うと、金森は苦笑いを浮かべ手元のコーヒーカップをとった。


コーヒーを飲む時、カップに触れる金森の唇に視線が行く。冬の乾燥を感じさせない潤んだ唇。俺のひび割れた口とは正反対だ。


「金森って、唇何かつけてる?」「うん、リップは欠かせないよ。乾燥すると皮が剥けて痛いからさ」


「ああ、リップクリーム

「良かったら使う?奥田も」


そう言うとバッグからリップクリームを取り出して俺に差し出した。


それを受け取ったが、ほんの少しの躊躇いがある。

金森の唇に触れたコレを俺の口に?

え、それってナンカ…


受け取って固まっている俺を見た金森は、リップクリームをもう一度手に取ると、キャップを開けて俺の唇に塗り始めた。


「塗った事なかった?」と聞かれ、俺はなぜか顔が熱くなる。そんなんじゃなくて、なんていうか…


返事に戸惑っていると、アツシが「これから映画行かない?ちょうど良い時間のあった」と言いながらテーブルに戻って来た。


「どんな映画?」

「サスペンスだけど、オレの好きな俳優出てるんだよな」

「オレはいいけど奥田は?」


金森に尋ねられて、思わず「うん、行くよ」と言ってしまった。今日は買い物をして帰る予定だったのに。



映画館に向かう間、アツシは好きな俳優の事を細かく教えてくれる。声がいいとか、身体を鍛えていてかっこいいとか、女子が言いそうな事を恥ずかしげもなく話していた。

俺と金森は、ただそれを聞かされながら映画館に向かった。


飲み物とポップコーンを買うとシートに着き、金森を挟んで三人で並んだ。

俺と金森はポップコーンを一緒に食べる事にして、映画が始まると互いに手が止まったりしていた。


サスペンスという事で、途中緊張する場面もある。

俺は考察をしながらも隣に座った金森の表情も気になった。どんな顔して見ているんだろう。


そっと横目で見てみると、金森は口元を上げて笑っていた。ニヤけていた、と言うほうが確かかも。


場面は犯人らしき女が追い詰められるところ。

アツシお気に入りの俳優が婚約している女だった。

必死で殺害の理由を述べる姿に、金森は鼻で笑うかの様な笑みを浮かべていたのだ。


正直、意外な反応だった。

どちらかといえば悲しいとかやるせなさを感じる場面だ。苦悩に満ちた女の表情に、胸が痛いと思わせる。


俺はスクリーンに視線を戻すと、ポップコーンに手を伸ばした。気分を変えたかったのかもしれない。


ふと、伸ばした手の先に金森の指が触れ、ハッとした。横を見ると金森も俺を見る。暗い中でスクリーンの明かりに照らされた顔を互いに見つめあった。

金森はもう笑みを浮かべていない。


俺は、ガバッとポップコーンを掴むと前に向き直って口に放り込む。これ以上見つめるのに抵抗があった。

口に入れてはみたが、味は分からなくて、変に心臓がドキドキしてしまった。なんなんだろう、この感じは…



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