俺、奥田とアツシと金森は3人でつるむ事が多くなった。元々アツシのコミュ力で3人の会話は途切れる事がない。
金森もアツシとは気兼ねなく喋れる様で、時に大笑いをしたりして最初の印象とは違って見えた。
「金森も大口開けて笑うんだな」
アツシが席を外して二人になった時に俺が言うと、少し不思議そうな顔で「え、大口開けてた?」と言った。
「ああ、なんか上品そうに見えるから、そんなガハハって笑うとは思ってなかった」
俺は自分が受けた印象を話したが、金森の表情が一瞬暗くなったのを見逃さなかった。
「ごめん、変な事言ったか」
「いや、いいよ。自分で言うのも変だけど、オレの容姿は人から勘違いされるようだし。上品じゃないのにね」
そう言うと、金森は苦笑いを浮かべ手元のコーヒーカップをとった。
コーヒーを飲む時、カップに触れる金森の唇に視線が行く。冬の乾燥を感じさせない潤んだ唇。俺のひび割れた口とは正反対だ。
「金森って、唇何かつけてる?」「うん、リップは欠かせないよ。乾燥すると皮が剥けて痛いからさ」
「ああ、リップクリーム」
「良かったら使う?奥田も」
そう言うとバッグからリップクリームを取り出して俺に差し出した。
それを受け取ったが、ほんの少しの躊躇いがある。
金森の唇に触れたコレを俺の口に?
え、それってナンカ…
受け取って固まっている俺を見た金森は、リップクリームをもう一度手に取ると、キャップを開けて俺の唇に塗り始めた。
「塗った事なかった?」と聞かれ、俺はなぜか顔が熱くなる。そんなんじゃなくて、なんていうか…
返事に戸惑っていると、アツシが「これから映画行かない?ちょうど良い時間のあった」と言いながらテーブルに戻って来た。
「どんな映画?」
「サスペンスだけど、オレの好きな俳優出てるんだよな」
「オレはいいけど奥田は?」
金森に尋ねられて、思わず「うん、行くよ」と言ってしまった。今日は買い物をして帰る予定だったのに。
映画館に向かう間、アツシは好きな俳優の事を細かく教えてくれる。声がいいとか、身体を鍛えていてかっこいいとか、女子が言いそうな事を恥ずかしげもなく話していた。
俺と金森は、ただそれを聞かされながら映画館に向かった。
飲み物とポップコーンを買うとシートに着き、金森を挟んで三人で並んだ。
俺と金森はポップコーンを一緒に食べる事にして、映画が始まると互いに手が止まったりしていた。
サスペンスという事で、途中緊張する場面もある。
俺は考察をしながらも隣に座った金森の表情も気になった。どんな顔して見ているんだろう。
そっと横目で見てみると、金森は口元を上げて笑っていた。ニヤけていた、と言うほうが確かかも。
場面は犯人らしき女が追い詰められるところ。
アツシお気に入りの俳優が婚約している女だった。
必死で殺害の理由を述べる姿に、金森は鼻で笑うかの様な笑みを浮かべていたのだ。
正直、意外な反応だった。
どちらかといえば悲しいとかやるせなさを感じる場面だ。苦悩に満ちた女の表情に、胸が痛いと思わせる。
俺はスクリーンに視線を戻すと、ポップコーンに手を伸ばした。気分を変えたかったのかもしれない。
ふと、伸ばした手の先に金森の指が触れ、ハッとした。横を見ると金森も俺を見る。暗い中でスクリーンの明かりに照らされた顔を互いに見つめあった。
金森はもう笑みを浮かべていない。
俺は、ガバッとポップコーンを掴むと前に向き直って口に放り込む。これ以上見つめるのに抵抗があった。
口に入れてはみたが、味は分からなくて、変に心臓がドキドキしてしまった。なんなんだろう、この感じは…