BL小説 「台風が運んできたものは」SS
*01
その日は、テレビやラジオ、あらゆる媒体が台風の状況を伝えていたから、俺は朝から用意万端、雨合羽をスクールバッグに入れて登校していた。
午後から本格的に降り出した雨を(あ〜あ、やっぱり来たか。)と天を仰ぎながら見ていた俺は、周りの奴らが傘をさして飛ばされそうになっている中、悠々とバッグから雨合羽を取り出す。
「あー、池田くんのレインコート可愛い!」
何気なく広げた合羽を目にした女子にそう言われ、「は?」と見直した。
「そのキャラクター、ひょっとして手書き?凄く上手だねー。」
「え?どれどれー」
女子に騒がれて、広げた合羽の背中を見たら、なんとも言えない気持ちになった。
「池田くんに、そういう趣味があったなんて意外~。」
「や、これは、…弟が、………」
俺は、慌てて合羽を丸めるとバッグの奥にしまい込む。そうして、下駄箱の靴を地面に放ると、急いでそれを履き校舎から飛び出して行った。
-----最悪だぜ!
朝、俺が鼻歌混じりに用意した雨合羽は、コンビニで買えるような普通のビニールの物。
なのに、その背中部分には、アニメの萌えキャラが、手書きされていた。
こんな事をするのは、俺と二つ違いの弟しかいない。アイツは高校でアニメ部に入ったらしく、あらゆる物にペイントしては喜んでいる。
………まさか、こんな物にまで!
怒りと共に沸き起こる、羞恥心。
こんな物を女子に見られるなんて。
降りしきる雨と風の中、ずぶ濡れになりながら走る。
こんなはずじゃなかった。傘は飛ばされて壊れるのがオチと、折角雨合羽を用意したのに!広げて確認しなかった自分にも腹が立つ。
バシャバシャと、水しぶきを上げて走る俺に
「おいっ!池田っ!」
追い越した傘の陰から名前を呼ばれて、思わず振り向いた。
「何やってんだ!?台風来るって言ってたじゃん。」
そう言って、ずぶ濡れの俺に傘をさしかけてくれたのは、去年迄同じクラスだった伊藤。
高3になってクラスが別れてしまった俺たちには、誰にも言えない秘密があった。
「…う…、うん。そうなんだけどさ…」
「そんなずぶ濡れじゃあ風邪ひくぞ!バスだって乗るんだろ?」
そう言われ、この姿でバスに乗り込んだら迷惑だろうなと思った。混む時間帯に、こんなビショビショの人間が隣に立ってるとか…
返事をしかねていると、
「オレの家で乾かして行けよ。乾燥機に入れれば大丈夫だろ。あと、カッパ貸してやるし。な?」
見れば、伊藤の体だって横殴りの雨と風で
ビショビショだった。でも、伊藤の自宅は歩いて10分の所。どうしようか考える。
「6時になったら母親が戻ってくるし、お前ん家迄送ってくれるように頼んでみるから。」
そこまで言われて、俺はつい「有難う、そうさせてもらう」と言った。
ここまで濡れたら、もう、気持ち悪いのを通り越している。シャツもズボンも体に張り付いていて、まるでプールに落ちた人の様だった。
*台風のお絵かき*