itti(イッチ)の部屋

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【迷いびと】ss 続き

 それに・・と言いかけて言えない言葉
’奥さんがいるのに’-----


 1年前、僕の勤める出版社に顔を出した友人から、彼が結婚したという話を聞いた。
僕は耳を疑った。彼は同性愛者、のはず。奥さんをもらうなんて頭の片隅にも思っていなかった。
でも、結婚したんだ。


僕から離れた後、何度か直山賞の候補にあがっていたのは知っている。でも、いまだに受賞は逃している。
どんな経緯があって、彼が異性と婚姻関係を結んだのかは解らない。それにもう、僕にとってはどうでもいい事で。
なのに、どうしてこんな電話をしてくるのか----


僕がしばらく口を閉ざしているので、堪らず彼がこう言った。
「結婚は間違いだった。」と。


その言葉を聞いて、僕の中の何かが音をたてて崩れてゆく。ガラガラと、心の隙間に埋めたタイルの一枚一枚が剥がれ落ちる音がした。
「---そんなこと僕は聞いていません。あなたが結婚したかどうかも知らないんですから。」

「すまない、そうだったな。---」

落胆している様子がわかると、僕は何を思ったのか「少しなら、いいですよ。」と言ってしまった。自分でもなぜそんな言葉が出たのか不思議でならないが、きっと崩れたタイルの奥から漏れ出た僕の気持ちが言わせたのだろう。
昔を振り返れば、疲れ切った自分の姿しか浮かんでこないというのに---


「有難う圭佑、有難う---」


受話器の向こうで涙交じりの声が聞こえると、綺麗だった将生さんの顔が浮かんだ。
今でもあの顔のままなんだろうか-----
あの人に抱かれた女性はどんな人だったんだろう。
ふと、そんな事まで詮索してしまう。
もう、顔も見たくはないと思っていたのに-----


4年の歳月を経てもなお、僕の心は迷いっぱなしだ。


-------------------終--------------------



将生のイメージ
 ラクガキです




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